調理場から、香ばしい香りがした。
なんだろうと、青年は調理場に足を向ける。
そして、そこに愛しい人の姿を見つけた。
Have the sweet Dream
「エイリーク様」
「あ…フォルデ」
「どうなされたんですか、調理服など着込んで」
白い調理服。少し大きめのそれを着た姫君をみて、その可愛らしさにフォルデは微笑した。
頭にかぶっていた布をとり、エイリークは調理台の上から一つの小皿をとった。
甘い、砂糖の香り。
「ああ…あの焼き菓子ですか、毎年恒例の」
「ええ。でも、なぜフォルデが?」
「去年、エフラム様からおこぼれを。甘いものは好きだろうと」
大地が凍る季節、エイリークは留学先のグラドで教えてもらった焼き菓子をつくる。
亡き国王も絶賛した、焼き菓子である。
「今年は、たくさんつくりたいんです──皆に、食べてもらいたいから」
「そうですか…そうですよね、これを食べれば元気出ますから!」
グラドとの戦いで受けた傷は大きく、深い。
ルネスに十分な数の兵はいない。だから、兵は皆疲労している。
エイリークは、彼女なりにできることとしてこの菓子をつくっているのだ。
「フォルデ、よかったら味見してくださいませんか?」
「え、いいんですか?」
「はい。もう、一部は焼きあがっているんです」
エイリークは調理場の奥へぱたぱたと走り、一つのかごを持って帰ってきた。
きつね色に焼けたそれらのひとつを、エイリークは手にとる。
「どうぞ」
「それじゃ、お言葉に甘えまして」
フォルデはそういうと、エイリークの差し出したお菓子をつまむ。
甘い。でもどこか爽やかな──。
「紅茶が入ってますね」
「あ…ほんとうに、少量ですが…よく気づきましたね」
「俺、家事は得意なんで。特に料理は、一時期絵以上にのめりましたね」
「意外です…フォルデは、ずっと絵を極めてきたのだと思っていました」
「ありがとうございます」
かじった焼き菓子を口に運ぶ。そして食べる。
最後のひとかけらを飲み込み、フォルデはいった。
「最高です」
「フォルデにそういってもらえると、嬉しいです」
エイリークは微笑む。
フォルデはそれを見て、言った。
「お礼です」
フォルデはかがみこむ。目線がエイリークと合う。
怒らないでくださいよ、と唇が動き──エイリークの額に、口づけを落とす。
甘い口づけに、エイリークは唖然とすることしかできない。
「じゃあ、俺は仕事に戻ります──ありがとうございます、エイリーク様」
フォルデはそういうと、足早に調理室を出ていった。
取り残されたエイリークは、焼きあがったお菓子より甘い出来事に顔を赤らめ、
「…フォルデ…」
と、愛しい人の名をつぶやいた。
05:藤闇ばん様 バレンタイン=甘いお菓子! フォルエイ=甘い恋! …という二つの公式(公式?)に則って書きました。 当初はバレンタイン当日の話で書いてたのですが、 そのうち『調理服のエイリークが書きたい…』と馬鹿発動。 もうどっちにしろ愛が。愛に体を乗っ取られてました。 とにかく好きなんです。フォルエイ万歳ー! ――と、ひと言書きが長くなりつつ。 甘いような爽やかな紅茶味、失礼いたしましたっ。また機会が在れば。 |
水月ヨリ でかしたフォルデ!!!と言ってやりたいですvV兄が見てたら瞬殺ものですが。(笑 それでもさらりとやってのけたフォルデ万歳!!! 調理服、水月はフリルのエプロンが希望なのですよ、藤闇様!!!(挙手 煩悩に忠実ですみません; 是非またご参加くださいvV |